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Exhibition Catalogue

アンチモニュメント

竹田信平

発行年: 2015.11
発行元: 長崎県美術館
サイズ: A4変形(本紙寸:ヨコ190mm、タテ260mm)
仕 様: 100頁(カラー20頁、モノクロ80頁)
執 筆: 今福龍太、野中明
2015年の戦後70年、被爆70年という節目となる年を迎えるにあたり、現在、メキシコのティファナとドイツのデュッセルドルフを拠点に活動を展開する竹田信平(たけだ・しんぺい/1978年大阪府生まれ)の仕事を紹介した国内初の大規模個展の公式図録。

竹田は、2006年から南米・北米に移民した被爆者の証言の記録を開始しました。その成果は、2010年に公開された長編ドキュメンタリー映画「ヒロシマ・ナガサキダウンロード」、そして2012年に国連軍縮局と共同で開設したビデオ・ウェブサイト「Hiroshima Nagasaki Download: Memories from the Americas」として公表されています。

同時に、竹田は、造形作家としての自らの制作にも被爆者の証言を取り入れました。しかしそれは、文字や生の音声としてではなく、データ化、数値化され抽象化された被爆者たちの「声紋」という形式をとっています。被爆者たちが語る彼らの経験は、竹田の想像力が及ぶ範囲をはるかに超えた内容と風圧で彼を圧倒しました。竹田にとって先ず必要なことは、その凄まじい風圧に吹き飛ばされることなく、彼らの声を受けとめることでした。彼は、被爆者たちの心情に単に同調するのではなく、それに耐えうる自らの身体、精神を練り上げるために、被爆者たちの「声紋」を無数になぞり、書写することを繰り返します。その過程で生み出された一連の作品は「α(アルファ)崩壊」と名付けられています。

その後、新たな展開として制作されたのが「β(ベータ)崩壊」のシリーズです。被爆者たちの声紋を書写する過程で、竹田は、そこに現象する「一本の線」の重要性に気づきます。彼にとって、それは過去から未来へと持続する「時間」そのものを示すものでした。あるいは、それは「記憶」と言い換えられても良いかもしれません。そして、メキシコの先住民の伝統工芸である織物に使用される綿の縦糸を、その「時間(記憶)」に見立て、無数の「時間(記憶)」の束によって成立する作品を生み出すに至ります。一本一本の綿糸は容易に切ることが可能です。それは、ひとつの「時間(記憶)」の抹消を意味します。しかし、無数の綿糸全体を一つの大きな「時間」ととらえ、それらを横断するように、一つの「記憶」が織り込まれているとすればどうでしょう。孤立した「時間(記憶)」と集合体としての「時間(記憶)」。竹田の作品はまさに、記憶の共有化、そしてその継承という問題を我々に問いかけるものであると言えるでしょう。

「アンチモニュメント」と題された本展は、「β崩壊」から「α崩壊」を経て「ヒロシマ・ナガサキダウンロード」へと、時間軸を逆にたどりながら竹田の仕事が概観され、「モニュメント」とはまた異なる仕方で記憶を共有・継承することの可能性、あるいはその不可能性についてを考察します。