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Critique

石膏デッサンの100年―石膏像から学ぶ美術教育史

荒木慎也

発行年: 2018.2
発行元: ART DIVER
サイズ: A5判変/並製本
仕 様: 256頁
デザイン: 木村稔将
美大受験生たちの血と汗と涙の結晶。「石膏デッサン」とは、何だったのか? 石膏像を巡る苦闘の歴史がわかる、石膏デッサン研究の決定版!!

美大受験をする者なら誰もが経験する石膏デッサン。とりわけ美術予備校において、その描画メソッドは時代とともに進化を遂げており、短期間の集中的な修練で見違えるほどの優れたデッサンを生み出すことができるようになっている。 しかし、いざ美術大学に入ってみると石膏デッサンは不当な扱いとされているのも実情である。教授によっては、「石膏デッサンの技術は、創作活動には有害だ」とすら指導する。美大受験に必須であった「石膏デッサン」は、大学では一転不要なものとされ、学生はその狭間で立場を問われる。
はたして、石膏デッサンは必要なのか? こうした議論は、教育者側からも作家側からも続いてきたが、いまだにその決着を見ることはない。「石膏デッサンは、制作における基礎体力をつける筋トレである」とか「ものを見る力をつけるにはこれほどいい教材はない」という肯定派がいる一方で、「石膏デッサンは、アカデミズムの悪しき因習で、自由で創造的な創作活動を阻害するものだ」「技術はもはやアートには必要ない」という否定派の意見も根強い。

本書の目的は、こうした膠着状態にある石膏デッサンへの言説を、その受容からいま一度振り返ることで、有効な議論へと発展させ、より構築的な美術教育史の理解を進めることである。前半の1章から3章で石膏像について論じ、後半の4章から6章で石膏デッサン教育について論じるという構成をとっている。そのなかで、これまで正体が不明とされてきた石膏像のオリジナル彫刻、日本における石膏像収集の歴史、近代と現代での石膏デッサンの違い、日本で石膏デッサン教育が普及した経緯、などの様々な事象を明らかにする。
これらの議論を通じて、石膏像の100年を、絶えざる価値観と制度の変転の中で繰り返し新しい定義を与えられてきた流動的な歴史として再定義し、日本における西洋文化の受容が、単に「進んだ」西洋の価値観を日本に不完全に移植したものでなく、その曲がりくねった歴史で構築された、対話的で越境的な石膏デッサン言説の生成過程であることを示していく。

不毛な「石膏デッサン是非論」の先にある新たなアートの創造のためにも、これまであまり日の当たらなかった「石膏像と石膏デッサン」について深く掘り下げることで、近代の美術教育が遺してくれた蓄積を反芻する試みである。


INDEX


問題の所在
西洋画教育の中の石膏像
これまでの研究
本書の射程

1章 パジャント胸像とは何者なのか
2体のベレニケ胸像
「バシャント」から「パジャント」へ

2章 美の規範としての石膏像
古代美の規範としての石膏像
帝国主義と石膏像陳列場
美術アカデミズム
モダニズムとデッサン

3章 工部美術学校と東京美術学校の石膏像収集
明治初期の石膏像導入
工部美術学校の石膏像
東京美術学校の『旧台帳』
海外から輸入した石膏像
石膏製作業者の登場
使われた石膏像・使われなかった石膏像
ボストン美術館の寄贈品
コレクションの不連続性

4章 芸術の本質としてのデッサン
工部美術学校の擦筆画教育
黒田清輝の石膏デッサン論
東洋の線と芸術の本質
石膏デッサンのモダニズム
石膏デッサンの規格化
教育の根幹としての石膏デッサン

5章 反・石膏デッサン言説
批判言説の源流
美術アカデミズム・リバイバル
教官と学生の対立
野見山曉治の入試改革
宮下実の石膏デッサン論

6章 美術予備校の石膏デッサン
美術予備校の登場
デッサンの神様・安井曾太郎
石膏デッサンの「デッサン」
白い石膏デッサン
ポスト石膏デッサン時代
現代美術の中の石膏デッサン
21世紀の石膏デッサン教育

結び
あとがき
改訂版に向けての追記
引用資料
[巻末資料]東京藝術大学絵画科油画専攻入学試験問題

[著者プロフィール]
荒木慎也/ Shinya Araki

1977年名古屋生まれ。東京藝術大学美術学部芸術学科卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。2013年に博士(学術)。東京大学教養学部国際ジャーナリズム寄付講座特任助教を経て、現在は成城大学、多摩美術大学、武蔵大学非常勤講師。専門は近現代美術史、美術教育学。